컬렉션: 伊藤明美

福岡県田川に窯を構える伊藤明美さん。

古唐津研究会に所属し、藩窯上野焼の地、田川で作陶している。

ややまるみを持ったかたち。なんとなくふわふわした小動物のような気配のある丸み。李朝的な作品において比較的カリカリっとした部分もあるが、やはり〈かな〉のように柔らかい線で構成される。伊藤さんの気質が、素直に出ているという具合で、もちろん決して丸めてやろうという作為の故ではない。

粉引、塩笥、白磁、三島など、伊藤さんといえば、、、という技法がすぐにいくつも思い浮かぶ。多彩な引き出しを持つ作家だ。

みずから「うつわや」という号を掲げるくらいで、日常のなかでがしがしどんどんうつわ(作品を)を使って欲しいと願っている。

それはしかし生活工芸の作家にみられるような態度とも少し違って、うつわが育っていく、その育った姿を愛するからであろう。

自らつくった粉引の「成長記録」のようなものを自分で本にまとめている、というエピソード一つとってみても、伊藤さんの「うつわが育っていくこと自体」、そして「育ったうつわ」への偏愛ぶりがおわかりいただけるかと思う。

そんな伊藤さんは細やかな作業も好きなようで、茶籠用に仕覆や網袋をつくったりもする。

陶芸の歴史はほぼ男性が作り上げてきたし、国宝なども含め、男性的な作風のほうが、格が高いものとして扱われる傾向にある。

そんな風潮を尻目に、伊藤さんはごく自然に、軽やかである。ただ古いものが好きで、焼きもんが好きで、手を動かしてつくるのが好きで。それだけである(かのようである)。逆に言えば、「それだけ」だからこそ、伊藤明美の作品には心を穏やかにしてくれる優しさが備わっているのだろう。それはある意味、既存の権威に対する否、でもある。それを彼らはわかるだろうか。

柔らかく、優しく、女性的な作品。その普通さは、見渡してみると結構得難いもので、貴重なもので、そのことを伊藤明美のファンは感じ取っているだろう。