コレクション: 坂倉正紘

山口県長門市三ノ瀬の地で、萩焼の祖・李勺光より350年あまり続く坂倉新兵衛の次期当主。

そのような長い伝統を持つ家を継ぐものとして、坂倉正紘の発する言葉からは次世代の萩を背負う、というごく自然な気概がうかがえる。その重責はしかし、重荷でもなく、あえて反発するものでもなく、ただそういうものとして、受け入れているかのようにみえた。

ただ、坂倉新兵衛という歴史ある名を継いだときに期待されるものと、坂倉正紘という陶芸家の志向には、もしかしたら、いくらかのずれがあるのかもしれない。

萩では伝統的に大道土、見島土、金峯土をつかう。これらが萩焼らしいうつわの特徴をつくるのだが、坂倉正紘さんは窯場の近くで掘った土を混ぜたりする。作品づくりの根底に、土への強い思いがある。御用窯としての伝統を持つ萩には似つかわしくないような、野性味ある土味。土と対話し、土のなりたいものをならせるという、自分の「手」よりも素材の声に重きを置くという作陶態度。(もちろん、ご覧いただけるように、「手」もめっぽうすぐれていることは言うまでもない。)

美しく洗練された形に閉じ込められた荒々しい土の記憶。琥珀に閉じ込められた太古の生物。

萩の、由緒正しき家柄を引き継ぐものとしての矜持。萩という歴史の重み。そのことはきっと十分すぎるほどに認識しながら、しかし坂倉正紘はもっと遠く、あるいは深いところを見つめているように思う。

それは悠久の時間であり、土を生み出した大地の時間の積み重なりであり、そしてそれら隠されたものが露出して姿を表すエロティシズムだ。

土という素材が持つ膨大な情報量とダイナミズムを、火によって揺るぎないかたちに一瞬にして閉じ込めていく。そう、坂倉正紘の作品は、生きる土の姿を、窯という写真によってその一瞬を切り取ったかのようだ。それくらい生々しく、しかし同じくらい静かで固定されている。蠢くものは薄皮一枚隔てて大地の脈動を響かせ、現世に降臨しようとその時を待ち構えている。

 

1983年
山口県長門市に生まれる
2009年
東京藝術大学及び同大学院彫刻専攻 修了
2011年
京都市伝統産業技術者研修 修了
2017年
明日への扉(CSディスカバリーチャンネル)出演
2019年
ブレイク前夜(BSフジ)出演
2019年
現在形の陶芸萩大賞展Ⅴ 佳作
2020年
初個展(新宿柿傳ギャラリー)