コレクション: 谷穹 

谷穹さんは、信楽焼の源流である古信楽を、現在進行形の問いとして捉え続けている作家です。

工房に併設された古信楽の蒐集空間には、多数の壺や器が並びます。幼い頃からそうした実物に親しんできた経験があるからこそ、谷さんは古信楽を「様式」や「引用」としてではなく、観察と検証の対象として見つめています。

谷穹さんが向き合っているのは、近現代の信楽焼と古信楽のあいだに横たわる、説明し切れない違和感です。

何が違うのか、どこが決定的に異なるのか。その問いに蓋をすることなく、透徹した眼で見つめ、実際に土を選び、窯を築き、焚くという行為の中で確かめていきます。

谷さんの作品において、「なんとなく」の形や偶然任せの窯変は見られません。
歪み、荒れ、焼成による景色もまた、長年の研究と反復によって手繰り寄せられた結果です。
それは考古学的再現ではなく、生命力を持ち、現代に渡り合う強さを備えたかたちとして立ち上がっています。

須恵器の系譜に連なりながら、整いすぎた均整を捨て去り、歪みやいびつさ、ざらついた肌によって、これまでの陶史にはなかった新しい美を生み出した信楽。
谷穹の仕事は、その最前線を、今日の時間の中で探り続けています。

茶の湯における使われ方は、これから形作られていくでしょう。
取り合わせや場の設えによって、器の立ち方が都度変わる余地を残した、その未確定さこそが、谷さんの仕事の重要な要素と言えるでしょう。

長い時間の中で、使い手の経験とともに意味が積み重なっていく――
谷穹さんの器は、そうした過程の入口に置かれた存在です。